5月FOMCの結果を踏まえてもインフレ収束までは遠い




2022年5月のFOMCが終了した。現在8.6%という異常な水準になっているインフレは今後どうなるのだろうか?今回の結果を踏まえて考察してみる。

結論から言うと、今のペースではインフレは収まらないだろう。そして、インフレをどうしても抑えるためには今以上の引き締めが必要となりインフレが収まる前に株価が暴落するだろう。

以前、インフレは制御不能という記事を書いた。

すでにインフレは制御不能になっており物価上昇は止まらないだろう

しかしインフレをどうしても抑えたい場合の手段が残されている。それは引き締めを急加速して株価を暴落させて経済を冷やすことである。

FOMCの結果をおさらい

今回のFOMCで焦点となったのは、利上げ幅と量的引き締めのペースである。結果は以下のとおりであった。

  • 5月から0.50ポイントの利上げを実施。FF金利の誘導目標は0.75ー1.00%に
  • 量的引き締めは6月から開始。ペースは6〜8月は最大475億ドル(米国債300億ドル、MBS175億ドル)、それ以降は最大950億ドル(米国債600億ドル、MBS350億ドル)

FRB、0.50ポイント利上げ 保有資産縮小は6月開始(Wall Street Journal、有料記事)

米FOMC声明全文(ロイター、無料記事)

利上げのペースは市場の織り込みよりは遅かった

通常、利上げのペースは0.25%刻みで行われる。しかし今回はあまりにインフレが加速しているため2000年以来の0.50%の利上げとなった。

5月FOMCの利上げ幅が0.50%というのは、事前にパウエル議長の講演会やFOMCメンバーの発言で織り込まれていたためサプライズではない。

6月FOMCでの利上げ幅について市場は0.75%の利上げと0.50%の利上げをどちらも織り込んでいたが、今回パウエル議長は「インフレはあまりにも高い」としつつも0.75%の利上げは否定した。

FOMCの声明では「持続的に引き上げることが適切」との見方を示したため、6月FOMCでは同じ0.50%の利上げになるだろう。これによってドル安となりS&P500などの株価指数は上昇した。(※しかしドル円は1日でほぼ同水準に回復した)

6月に0.75%の利上げの可能性を織り込んでいた株式市場にとっては、ポジティブなサプライズとなった。

量的引き締めも市場の織り込みよりは緩やか

今回の量的引き締めは、国債を市場で積極的に売却するわけではなく償還期限を迎えた国債を再度購入しないという手法で行われることがわかった。これは市場の織り込みより緩やかであった。

しかし、FRBはこれまで量的引き締めを成功させたことがない。2018年は量的引き締めが毎月500億ドルのペースになった時点で株価とドルが暴落したことで、中止を余儀なくされたのだ。

インフレと株価暴落を同時に抑えることは可能か?

今回のインフレは8.6%に達しており40年ぶりである。では、40年前にインフレを抑えるためにどれくらいの利上げが必要だったか確認してみよう。

青はFF金利、赤はインフレ率である。

1970年代はオイルショックにより10%を超えるインフレになっており、インフレ率と同じFF金利に設定し、インフレは一度収まったが株価が暴落した。

その結果、再度金利を下げることになったが再びインフレが顔を出して第二次オイルショックは未曾有の20%近いFF金利にすることでようやくインフレは収まった。

現在はどうか?上のチャートの右端を見てほしい。インフレ率8.6%に対してFF金利は0.75%である。どう考えてもこれでインフレが収まるはずがない。

現在起きているインフレは原油価格の高騰が大きな要因の一つではあるが、労働力不足や中国のロックダウン、インフレの自己強化プロセスなど複数な要因がある。

特に住宅価格は昨対比20%というリーマンショックを引き起こした住宅バブルも真っ青の水準で暴騰している。

もしインフレを抑えたいならば、それは株価を暴落させることを意味する。1970年代は金利をインフレ率に連動させることでインフレを収束させた。

しかし、現在は低金利だけではなく量的緩和で溢れたキャッシュがインフレを加速させている。当時のように金利だけではインフレを抑えることは出来ないだろう。

だから量的引き締めを行ってキャッシュを巻き上げる。これは言い換えれば、1970年代のインフレ時より激しい引き締めがこれから起きるということである。低金利と量的緩和によるじゃぶじゃぶのキャッシュで暴騰した株価をこれから逆回転させるのだから。

2018年に量的引き締めを行って株価が暴落した際のペースは毎月500億ドルであった。今回は、いきなり最大475億ドルから引き締め始めるのだから株価はすぐに持たなくなるだろう。

パウエル議長はインフレを抑えるためにあらゆる手段を尽くしてくるだろう。株価が暴落しても引き締めを緩めることは許されない。

「インフレはずいぶん高過ぎる。それが引き起こしている困窮をわれわれは理解し、インフレ沈静化のため迅速に行動している」

パウエル議長、インフレ抑制を確約-「多少の痛み」伴うリスク認める

FOMCの声明では、多くの人がややハト派と感じたようだ。それは利上げのスピードと量的引き締めのスピードが警戒されていたものよりは遅かったからだ。

しかし、アメリカ中央銀行のトップが「これから景気後退が来るだろう」とか「引き締めペースはさらに加速するだろう」とは口が裂けても言わないであろう。今年はアメリカの中間選挙が控えているため、インフレを抑えてかつ経済も守るというシナリオを言うしか無い。

パウエル議長も彼自身の役割があるため、言葉を文字通りに受け取ってはいけない。恐らくインフレが収まらないと見れば、どこかのタイミングで0.75%の利上げを織り込ませに来るだろう。今回の会見をそのまま受け取って、ソフトランディングが実現するとは思ってはいけない。

投資家はどのようなポジションを取るべきか?

インフレを抑えようと強い引き締めをすれば株価は暴落するし、株価を維持しようと弱い引き締めをすればインフレは悪化する。今年の投資はとても難しい。

結論から言えば、金利上昇に弱いハイテク銘柄が多く含まれるナスダック100の空売りとコモディティを買うというトレードが良いだろう。

まずコモディティを買う理由はもちろんインフレである。私はいまのペースではインフレが収まると思っていないので、今後もコモディティは上がると考えている。

しかし政策転換によって引き締めペースが加速した場合、コモディティ価格は株価とともに暴落するだろう。そのためコモディティを買うだけではリスクが高い。

そこでナスダック100の空売りである。ナスダック100はハイテク銘柄を多く含むため金融引き締めに対して弱い。そこで、強い引き締めが来た場合に備えてナスダック100の空売りとコモディティ買いをしておくのである。

実際、利上げやQTの織り込みによってナスダックは年初来20%前後も下落している。ハイテクは金融引き締めに弱いのだ。

なぜハイテクの空売りとコモディティか?

ハイテクが金利上昇に弱いのは、ハイテク銘柄の株価は将来の長期間で得られるキャッシュフローを株価に織り込んであるからである。すなわち、ハイテク銘柄は将来の成長性を見込んで株価がつけられている。これをグロース株という。

金利があがれば、将来の同額あたりのキャッシュの価値は下がる。現在のキャッシュに対して無リスクで得られる利子が増えるためである。

1年間で1%の利子がつく状況と5%の利子がつく場合を比べてみよう。100万円預けた場合、前者は1年後に101万円、後者は105万円になる。前者の場合は1年後の100万円は現在の99万円の価値に相当し、後者の場合は95万円の価値に相当する。

つまりグロース企業が将来稼ぐキャッシュの価値が下がっている。

一方、コカコーラやマクドナルドなど成熟した企業はグロース株のような急成長を期待されてはいないが、安定した成長と強固な財務状況が株価に強く反映される。これをバリュー株という。

ざっくりといえばグロース株は将来の成長性を買って買われているが、金利が上昇していくと投資家が無リスク(元本保証)で得られる金額が増える上、資金調達のコストが嵩む。これがグロース株が金利上昇に弱い理由である。

うまい例えだと思ったのは、金利は重りのようなものであるという考え方だ。バリュー株は強固な財務状況とブランドによって多少の重りがあっても力強くある程度進んでいける。しかし、将来の成長を見込まれた子どもの足に重りをつけた場合、遠くまで行けず途中で足を止めてしまうだろう。

ではここで、別の観点で理論株価の計算式を見てみよう。

金利

無リスクで得ることが出来る利子である。債券利回りであり名目金利である。名目金利はインフレ率+実質金利と同じである。例えば債券が年3%の利回りでインフレ率が2%の場合、実質金利は1%である。

リスクプレミアム

元本割れリスクがある株式を買う際に、投資家が要求するリスクテイクへの対価である。

インフレ率

キャッシュの価値の減少率である。通常、消費者物価指数(CPI)の対前年比などが用いられる。

実質成長率

予測される純利益の成長率である。

上記の通り、金利の上昇は株価に取ってマイナス要因でありインフレ率と実質成長率はプラス要因である。そこで、なぜハイテク銘柄の空売りとコモディティを買うか再度整理してみよう。リスクプレミアムと成長率は一定と仮定すると

①グロース株の株価は「インフレ率がプラスに、利上げ(金融引き締め)がマイナスに作用」
②コモディティは「インフレ率がプラスに作用」

そして、①の裏返しとして

③グロース株を空売りは「インフレ率がマイナスに、利上げ(金融引き締め)がプラスに作用」

ということは、グロース株の空売りとコモディティの買いの組み合わせは②+③である。結果としてインフレ要因が打ち消し合って

  • グロース株空売り + コモディティ買い = 「利上げ(金融引き締め)がプラスに作用」

となる。これからインフレを抑えるために金利を上げていき、いずれ暴落することを踏まえるとこの組み合わせが良いのである。

例えばグロース株の空売りだけでは、インフレが収まらない場合にインフレは株価にプラス要因なので、株価が下がるほど得をする空売りの旨味が減少してしまう。また、コモディティの買いだけでは厳しい引き締めが来た場合に損をしてしまう。

このトレード方法で最もベストな状況は「金利が上がって株価が暴落したものの、インフレがなかなか収まらない」である。この状況になると、グロース株の空売りとコモディティ買いの両方がプラスになる。

結論

5月FOMCは、事前に懸念されていたほどはタカ派ではなかった。しかし、パウエル議長の声明ではインフレと戦い続ける姿勢が明白になった。FRBは利上げを断固として継続してインフレを抑えるために動くだろう。以下のように発言している。

委員会では、今後数回の会合で50ベーシスポイント(bp)の追加利上げが検討されるべきだという感触が広がっている

米経済は非常に堅調であり、金融引き締めに対応できる態勢にある

そして「ソフトランディングができる」と主張するために雇用の強さや経済指標をその根拠としているが、そもそも中央銀行のトップが「景気後退になる」などとまず言うはずがないということを念頭に考えるべきである。

株価の暴落を引き起こした2018年のQTショックよりも早いスピードで量的引き締めを行い、利上げを進めようとしている。インフレはしつこいようだが8.6%という高水準である。

一時的に株価が反発することはあるだろうが、長期のトレンドとしては株価暴落→インフレの抑制→再緩和→インフレの再燃と見ている。