ウクライナ侵攻はグローバル化の流れを逆流させるだろう




前回の記事では、主に金融・経済面における今後の考察を述べた。

すでにインフレは制御不能になっており物価上昇は止まらないだろう

今回の記事では、ウクライナ侵攻が引き起こす大きなトレンド転換について考察していこうと思う。

私の立場は中立

最初に述べておくと、私自身はウクライナ侵攻という出来事に対して中立な立場を取っている。欧米を称賛する意図も無いし、ロシアが行っている虐殺を正当化する意図も無い。

どちらが正しいかという明確な意見を持つには、歴史や文化に対する非常に深い理解がなければいけないと思うが、私自身がそれを持っているとは思えないからだ。

暴力や虐殺は決して正当化出来るものではない。だからロシアが行っている”行為”については許せないと思う。しかし、歴史的には欧州はロシアに何度も侵攻を行い国家の存続を脅かしていた。

だからロシアが行った”行為”に対しては許せないという立場だが、ロシアが正しいか欧米が正しいかと言われれば中立である。

ウクライナ侵攻で露呈した西側の同調圧力

上記のように私は中立の立場であるが、西側(日本も含む)のメディアがあまりに偏向しているように見えるので読者にはロシア寄りではないかと感じるかもしれない。

まず、欧米はその理念によって世界を支配していった。それは「自由」「権利」「民主主義」「資本主義」「金融」といった架空の概念を作り出し、強化して、より強固な支配システムを作り出したことだ。

例えば、一昔前に流行っていたSDGsはヨーロッパ発の考え方で、元々欧州に根付いていた思想と親和性が高い。

アフリカやロシアのような資源がなく、中国のように安い人件費による圧倒的工業力を持つこともなく、アメリカのようにビッグテック企業が存在するわけではない。

そのような状況で生まれたのがMDGsが発展したSDGsである。SDGsの理念自体は素晴らしいことが書かれており、実現に向けて世界が協調していくことは素晴らしいことだと私は思う。

一方で知っておくべきことは、資源も工業力もビッグテックも持てないヨーロッパが世界のルールを決めようとしたというこの文脈である。SDGsはただの綺麗事ではなく、欧州が世界を支配するために開発した戦略的な側面も大いに含むのだ。

SDGsの例を通して何が言いたいかというと、欧米諸国は自分たちでルールを作成してそれを他国に強要する傾向があるということだ。

例えば、今回のウクライナ侵攻においてハンガリーやインドは「中立でいたい」とし、ロシアを支援することもなく制裁することも無い立場を希望した。

しかし欧米諸国はそういった「中立でいたい」国に対してロシアの制裁を行うよう脅迫を行った。また「プーチンを批判しなかった」という理由でロシア出身の芸術家を排斥する動きが欧米で起こっている。

プーチン氏批判しないロシア芸術家、欧米で締め出しも 深まる分断

日本人は「欧米は同調圧力が低く、多様性を大切にしている」と考えている人も多いと思うが、実際は全くの逆である。さまざまな人種や文化が混在しているからこそ、有事のときは強い同調圧力で制御しなければ崩壊してしまう。

西側諸国が行った禁忌「ドルからの締め出し」

そして今後の世界を考える上で大きい転換点は、西側諸国がドルの決済ネットワークSWIFTから締め出したことである。

アメリカドルは基軸通貨として世界で最も使われている決済通貨である。実はアメリカのインフレ率は対前年8.6%上昇している。これは言い換えるとドルの価値が8.6%失われたということである。

実際に対前年同月比の物価上昇率を見てみよう。

それでもドル高が進んでいる。なえだろうか?それは、上昇し続けている理由のひとつに、決済通貨ゆえに一定の需要が存在するという事情があるのだ。しかしドルからの締め出しは世界を分断していくかもしれない。

貨幣とは信頼によって成り立っているものである。アメリカは1971年に金本位制を廃止している(ニクソンショック)ため、ドルの裏付けとなる実質的な価値は存在していないも同然である。

ではなぜ貨幣が効力を持つのか?それは「貨幣がいつでも商品の支払いに使える」ということを国が保証しているからである。商品との交換に使えない紙幣なんて燃やすか家に飾るくらいしか使いみちがなくなるだろう。つまり貨幣の本質的価値は信頼である。

私たちはなぜ必死にお金を稼ぐのか?それはお金は商品と常に交換可能であり、ある日いきなり国が「今日から貨幣は使えなくなります」と言い出すリスクをほぼゼロと見積もっているからである。

これは余談だが、インドでは2016年にマネーロンダリング対策で500ルピー札と2000ルピー札を次の日から廃止するという信じられないことが発生した。

インド高額紙幣廃止1年 不正資金撲滅の奇策も効果薄く…「経済低迷の原因」指摘も

私は2017年1月にインドを放浪していたので、この件に関する混乱を間近で感じたことで貨幣が幻想であることに気がついた。

しかし、西側諸国が行ったドルからの締め出しはこの「信頼」を大きく壊してしまった。西側諸国の機嫌を損ねれば、(大義名分がある限り)ドルのネットワークから締め出されて経済的に大ダメージを負ってしまう。

西側諸国に属する我々日本人は、メディアの偏向もあってこれを問題視することは無いかもしれない。しかし構図を考えてみると、ドルという大きな力を持っているアメリカが一方的に気に入らない国の生殺与奪の権を握っているということである。

ここで考えてもらいたいのは、西側諸国に属さない中東やインドなどがどう考えるかである。「中立でいたい」というだけで脅迫を受けて、機嫌を損ねればドル決済から締め出されるということが分かったときに、ドルからの依存脱却を考えるだろう。

ドルに変わる基軸通貨の候補は今のところないので、ドル覇権がすぐに終わるということでは無い。しかし長期的には決済通貨としてのドルの価値は毀損していく可能性が高くなってきた。

実際にサウジアラビアは石油を中国元で販売することを検討し始めている。

人民元が反転上昇、サウジが元建て石油販売を検討とのDJ報道で

ただドルの代わりの決済通貨として中国元が台頭してくるかというと正直分からない。独裁国家は政治リスクが高く、中国のようなランドパワー国家は国内外が不安定になるため戦争リスク(地政学リスク)が高い。

歴史を振り返ると、これまで世界の覇権を取ってきた通貨はオランダ→イギリス→アメリカといずれもシーパワーのものである。

今後、ドルは暴落するか?

為替市場は短期金利に強い影響を受けるため、8.6%という強烈なインフレになってもドル高が進んでいる。アメリカの中央銀行FRBの強力な利上げと量的引き締めを織り込んでアメリカの短期金利が上昇しているのである。

繰り返しになるがアメリカドルは1年で8.6%の価値を失っている。また貿易赤字は過去最高を更新している。

アメリカのインフレや貿易赤字はウクライナ進行前から既に手がつけられないことになっていた。つまり、ウクライナ侵攻がなくてもドルの価値は潜在的に下がる要因が増大してきた。

今はまだ耐えてはいるが、アメリカの経済が利上げや量的引き締めに耐えられないと分かって金融緩和を再開したタイミングに化けの皮が剥がれて暴落する可能性が高い。

実際、2018年12月に起きた金融引締めによるアメリカの株価暴落時にドル安が急激に進んだ。

それは早ければ今年後半、遅くとも来年前半だと私は考えている。

西洋諸国が世界を支配する時代は終わっていくか

ここ十年ほどのトレンドとして世界的に金融政策は緩和的だった。貨幣をいくら印刷してもモノやサービスが増えるわけではないので、貨幣の価値をひたすら落とし続けてきた。

念の為に述べておくと、ゴールドや株式に対して貨幣が価値を落としていくというのは数百年続いたトレンドであり悪ではないということだ。ただ、政治的な理由や私利私欲によって強烈に貨幣価値が落ちたのがここ最近でありもはや人災と呼ぶしか無い。

今後ドルの支配力が落ちてくれば相対的にモノ、つまり穀物や原油や金属などのコモディティを持っている資源国の影響力が強くなっているだろう。いくら紙幣を印刷しても原油は湧いてこないからだ。

西洋諸国は人災とも言える緩和政策で貨幣の価値を毀損し、さらにドルネットワークからロシアを締め出したことで更に貨幣の価値を下げかねない行動に出たということだ。

結論

西洋諸国は自らの貨幣の毀損によって徐々に世界の支配力を失っていくだろう。ただしそれは数年や10年程度の話ではなく、長期的なトレンドである。

ウクライナ侵攻によって露呈した西側諸国の同調圧力に恐怖した国はそこそこあるのではないだろうか。それはドルへの信頼を低下させてドル離れの潮流を生み出すだろう。

ここまで「西側諸国」としてまとめて表現したが、スイスは別であると考える。スイスの場合は独自の通貨「スイスフラン」を導入しており、債務は1年間GDPの約40%とわずかであり、安定して貿易黒字である優秀な国家である。

債務が少ないため紙幣を印刷して貨幣価値を下げることもないし、貿易黒字であるため手に入れた外貨をスイスフランにする買いの圧力が発生する。政策金利が-0.25%(マイナス金利!)にも関わらず、スイスフランが買われ続けるにはこのような理由がある。

ちなみに日本の債務は1年間GDPの約200%である。そして金融緩和でキャッシュを無制限に印刷している。ドルや日本円に未来は無いように思える。長期的にはコモディティやスイスフランなどの外貨に資産を変換することが最適解になるかもしれない。