就活サイト「リクナビ」を運営しているリクルートキャリアの「内定辞退予測」ツールが炎上して販売中止になる事件が発生しました。公式ホームページ上でも謝罪文が掲載され、数日・数週間に渡って炎上し続けています。
僕自信も就活を経験して色々と思うところがあったので、かなり嫌悪感を感じたトピックです。そのため、今回はこの炎上事件に関して考えをまとめようと思いました。
目次
リクルートキャリアは何をしたか
今回の炎上は、学生の内定辞退予測を行う「リクナビDMPフォロー」というツールが発端になっています。
これは、学生のリクナビ内での行動履歴に対してデータ分析を行い、内定辞退率を5段階で予測するというものです。学生7983人に対して「データの外部提供」に関する同意が無かったにも関わらず、予測対象に入っていたことがニュースとなりました。
この商品が企業に対して400万〜500万円という高価格で売っていたことに加えて、本当に内定辞退をするかも分からないのに、学生の将来を潰しかねないような倫理観なき商品を売ったということで炎上したのです。そして、この商品の販売を終了するところまで追い込まれました。
リクルートキャリアは「採用の合否には利用しない」ことに同意を得た企業にしか販売していないと主張しており、恐らくそのような契約であったかとは思いますが、実際にどのような活用方法をされたか確認する術はないでしょう。
採用合否に使わないのに400〜500万円も払う合理的理由が分からない
個人ブログなので僕の個人的意見を書かせていただくと、このニュースを見たときに「倫理観ない会社だな」と思いました。「採用合否に使わない」会社にしか売っていない、という主張がありますがこれを本気で守ると思っていたのかが疑問です。
これは人の心の中の話ですから、リクルート側の考えも、買った企業側の考えも断定することはできません。しかし、採用合否に活用できないにも関わらず企業が400万〜500万円も払って買う理由ってなんでしょうか?そんなにお金が余っているんでしょうか?会社によってはあまっているんでしょうけど。
ホンダやトヨタがこの商品を買っていたことがニュースになっていますが、日本一の企業トヨタでさえ「終身雇用の維持は難しい」と社長自らが言わざるを得ない状況です。つまり400万〜500万円分かそれ以上の価値がある使い方を想定しているはずです。そして、内定辞退率というピンポイントでニッチな情報をどのように活用するのか、甚だ疑問です。
建前上は採用合否に使わないでくれと契約をしつつも、内心は「使うんだろうな」という思いがリクルート側にあった気がするのは自然ではないでしょうか。
「個人情報」を商品にする上での倫理観
学生の行動履歴を分析して内定辞退率を予測するって気持ち悪い、と思ったのが素直な感情です。嫌悪感と不快感が身を包みました。リクルートキャリアさん、あなたは中学生が情報の授業中にエロサイトを見ていないか監視する先生ですか?
少し話は変わりますが、GoogleやFacebookも個人情報を商売に使うことで莫大な利益を得ています。具体的に言うと、GoogleやFacebookも個人の検索履歴やサイトの閲覧履歴、友達とのつながりなどの情報を機械学習で分析して、サイトなどで表示される広告の種類を最適化しています。
Googleの検索エンジンや地図など、あれほど素晴らしいツールを何故無料で使えるのかというと、個人情報を元に広告配信システムを運営して莫大な利益が出ているからです。2018年1Qの時点では、86%が広告収入です。一方でAppleは個人情報で商売するという非倫理的なことはしない、GAFAとひとくくりにするなとも言っています。
確かにGoogleもリクルートキャリアと同じく個人情報を商売のタネにしています。にもかかわらず、Googleなどには個人情報を売られることに対する嫌悪感や不快感があまりありません(もちろん、感じる人も一部にいますが)。一体何が違うのか僕は疑問に思いました。
恐らく今回の炎上事件に対する不快感のポイントは、
- 人生を大きく左右する就職活動という場でのこと
- マッチポンプ式のビジネスであること
- 情報提供への同意が学生側に認知しにくい作りになっていたこと
であると思います。
人生を大きく左右する就職活動
当然ですが、就職活動の結果は人生を大きく左右します。仕事をする時間は人生の中で圧倒的に多いわけですから、この時間を充実した時間にできるかどうかというのは、人生の質そのものに関わります。
日本では徐々に通年採用がはじまり終身雇用も崩壊していますが、それでも新卒採用は圧倒的に重要であるという現状があります。なぜならば、中途とは違って実績をそこまで求められないので、中途では入りにくい大企業や有名企業に入れる確率が高いからです。また、キャリアの初期が非常に後になって響いてくるということもあるでしょう。
だからこそ、着たくも無いスーツを着て、髪を黒に染めて、紙のエントリーシートというクソみたいな不合理にも耐えて、笑顔を貼り付けて面接に行くのです。このような真剣勝負の場に対して、内定という非常にナイーブなことをコンピュータによって計算された「確率」で左右されてしまうことは、就活生にとって大きな心理的負担になるし、腹ただしいことでしょう。
そもそも、いまの就活の面倒くさいシステムをつくったのはリクルートです。就活生には面接の作法を教えつつ、採用企業には面接で就活生の裏を見抜く方法を教えているのです。就活だけではなく、例えば結婚雑誌「ゼクシィ」についても「人生において結婚とは幸せである」という価値観で国民を洗脳して、お金を落とさせることをしています。
マスメディアが力を持っている〜2010年辺りまではマスコミと手を組むことで、「結婚は素晴らしいものであり、お金をたくさん使って行うものだ」という価値観で洗脳することで、経済が周っていくという一定の良さはありました。しかし今では時代遅れです。人の幸せには色々は形があることがバレ始めてしまいました。
人の幸せの形や人生の大イベントに介入し、勝手に形式を作って商売にしているのがリクルートなのです。
マッチポンプ式のビジネス
上にも書きましたが、就活生にも採用側にも面接対策を行ってよく分からないルールを押し付けるのがリクルートです。内定辞退予測の商品に関しても、マッチポンプ的な側面があります。
そもそも日本は少子化であり学生の獲得に各企業は大変苦労をしています。そんな中で、就職活動をする学生・採用活動をする企業、という限られたパイをより激しく取り合わせて何が生まれるのでしょうか?
リクナビの本質的な価値というのは、求職者と求人企業をマッチングさせることで、働く人にとっても会社組織にとってもプラスにするというところであると思います。
求職者が仕事に対して求めていることがその会社だと満たされ、企業文化ともマッチして気持ちよく働ける。一方で、社員がそのような状態になっていると、主体性や能力がより発揮されるので、企業活動にとってもプラスになるという三方良しな状態になります。
リクナビに関して言うと、求人数の多さも圧倒的ですし、フォローやツールも充実しているので、社会貢献としての面も大きいように思います。
だが、内定辞退予測ツール、これはよくわからない。このツールによって誰が幸せになるのかがよく分かりません。企業も学生も不信感を抱いたまま、腹のさぐりあいをさせてどうなるのでしょうか。もはや、「信頼」「信用」ではなくただ統計だけで人が判断される世界に未来はあるのでしょうか、と思ってしまいます。
学生だって人生かけている訳ですから、内定をもらった後も他の企業を調べたりしたいでしょう。これを妨害するということは、リクルートが間接的にオワハラ(※内定後に就活を止めるように、内定を出した企業が学生に対して行うハラスメント)を助長していることと同義です。ただでさえ就活では企業が圧倒的に学生に対して有利なのに。
情報提供への同意が学生側に認知しにくい作りになっていた
ここに関しては、僕は法律の専門家でもなければ、実際に今年リクナビを利用したわけではないのでコメントができないのですが、そもそも行動データの提供に対する同意について書かれた場所が分かりにくかったり、書かれていなかったということがあるようです。(下記参考リンク)
「リクナビ「内定辞退予測」、拙速の裏に2つの危機感」(日経ビジネス)
データの活用と倫理観について
世の中はデータを収集するIoTデバイス、分析するインフラ基盤(コンピュータースペック)、分析するアルゴリズム(機械学習ライブラリ)の大きな発展が火種となり、データによる統計最適化の流れがますます進んでいます。
一方で、EUが一般情報保護規則を2018年から実施しているように、個人のデータをしっかりと守ろうという動きも進んでいます。これはGAFA、つまりカリフォルニア帝国が情報社会を支配してしまうことに対する抵抗でもあるのですが、そもそもEU圏ではGoogleが好きでない人が多く、プライバシーに対しての問題意識が高いのです。
加速するデータ社会の流れにおいて、個人情報をどのように守るかという議論は今後もますます重要になっていくことでしょう。個人情報を利用したデータ分析は、非常にパーソナライズされた有用な結果をもたらす反面、個人の行動を規定してしまったり、思わぬ不合理や嫌悪を引き起こす可能性があるので、扱いには注意が必要だからです。
プライバシーの問題意識が高まっていく中で、よりデータをうまく活用して住みやすい世の中にしていくためには、個人情報を扱う人々の倫理観というものが最も重要になります。今回の炎上では、学生の行動データを分かりにくいカタチで取得に同意させ、就活というナイーブな場をマッチポンプ式の金儲けに利用しようとした倫理観が叩かれているポイントになっているのです。
リクルートは個人の能力も、データ分析基盤も世界でもトップクラスのはずです。量子コンピュータを持っている企業なんてそうそうありませんからね。だからこそ集団になってやっていることが情弱ビジネスか、と思うと残念で仕方ありません。
倫理観なき会社は叩かれる時代の流れ
少し話はそれますが、「NHKから国民を守る党」という政党が2019年7月の参議院選挙において比例代表で当選しました。これはまさに、NHKという倫理観もなく既得権益の塊という狂った組織が、有権者の逆鱗に触れた結果であると思います。
これが昭和や平成初期であれば、ただの泡沫候補として当選することは無かったでしょう。この党の勝因は選挙戦略の上手さがありますが、特にYoutube、つまりSNSを利用して人々の共感を得たということが最も大きいでしょう。
その他にも、吉本興業の闇営業問題から始まった一連の騒動や、レペゼン地球の炎上商法(レペゼン地球の事務所の人がセクハラを告発して話題になったが炎上させてプロモーションするための嘘だった)が叩かれているように、倫理観なく、社会的に正しくないことを行うとすぐにSNSに拡散される時代なのです。
この流れに対して、僕は行き過ぎのように思っていますが、実際そのような世の中なのですから仕方ありません。確かに弱者が「正しさ」という武器を持って、少しでも間違えた人を集団でボコボコにして下に引きずり下ろすことが一種のエンタメとして機能しているキモさはあります。
ただ、この流れを止めることはしばらくは難しい気がします。少なくとも僕はSNSを禁止するとかインターネットを規制するというようなことしか思い浮かびません。
だからこそ、本当に世の中のためになるのか、世の中の人はどのように感じるのかを繊細にキャッチし、コンプライアンスをしっかりと整備することが重要だと思います。少なくとも今回炎上した商品のような、どこか感性が狂っているんじゃないかと思わせるようなものがもう出てこないように願うばかりです。