アートとデザインって何が違うの?という疑問を持ったことがある人は多いと思います。アートはどこか高尚で近寄りがたいイメージ、デザインはオシャレな広告のイメージ…のような漠然としたイメージを持っている人も多いと思います。
では、例えば六本木のオシャレなビルは、果たしてアートと言えるのかデザインと言えるのか…と聞かれると少し考えてしまうかと思います。ここで、今一度アートとデザインの違いについて考察していきたいと思います。
目次
アートはクライアントが自分、デザインはクライアントが他人
アートとデザインの違いを考えるにあたって、「誰のために作品をつくるのか」という観点は非常に重要なように思います。いわゆるアーティストと呼ばれる人は、自分が表現したいものや作りたいものをつくる人たちである一方、デザイナーと呼ばれる人は、他の人が持つ課題を解決するために何かを作るという側面があるからです。
よく「アートはお金にならない」と言われることがありますが、それはアートというものは他人の課題を解決するなど、世の中の需要を満たすために存在するものではないからです。
ときには数億円という値段になるアート作品がありますが、あれは結果としてそのようになっただけです。誰かに頼まれて作ったというわけではなく、自分が作りたいものをものをつくっていたら、文化的な価値を持つようになったというのが正しいですね。
そのように分類をすると、果たして自分はアーティストタイプなのかデザイナータイプなのかという問いに答えやすくなるのではないでしょうか。
アーティストタイプというのは、自分の問題意識や表現したいものが浮かんできて、自分をクライアントにすることが好きな人。一方でデザイナータイプというのは、世の中の課題を見つけて、それを解決するためになにか作ったり工夫をするのが好きな人。
世間ではよく「趣味を仕事にするべきかどうか」ということが話題になります。もし、アーティストとして自分がつくりたいものを作っていくならば、アートの他に食い扶持を稼ぐ方法を持っている必要があるでしょう。
一方で、課題解決のための作品作りが好きなデザイナータイプであれば、趣味と仕事がなめらかに接続されたライフワークとして機能していくのではないかと思います。
アートは複雑性の追求、デザインは機能と見た目の追求
アートというのは、文化的な文脈を持った作品であることが多く、解釈をするのが複雑です。ピカソの絵の中には、誰にでも描けそうな作品があるわけですが、ピカソ風の絵を書いたところで大した価値は付きません。それは何故か。
ピカソの絵が評価されているのは、その絵が描かれた当時のアート界における潮流を変えるキッカケになったという面が大きいのです。具体的には、キュビズムと呼ばれる3次元的な動きや見方を2次元のメディアであるキャンバスに表現したことが、新しいアートの流れを生んだのです。
このようにアートというのは、絵がうまいとか下手とか、そのようなシンプルな評価で価値が付いているわけではありません。歴史的流れや、文化の変化という大きな背景の中で、その作品がどのような意味を持つのかを時間的淘汰によって試されて、そこで価値があるものとみなされていきます。
一方で、デザインを行う場合は基本的に複雑性を排除する方向になります。なぜならば、デザインとは誰かの課題を解決したり、誰かに気持ちがいい体験をさせることに目的が置かれがちだからです。
例えば、iPhoneはよりシンプルにストレス無く使えるようにデザインされたプロダクトと言えるでしょう。メールや地図や電話といった様々な機能をハードウェア一つで実現し、誰もが使えるようにデザインされています。
デザインというのは元々、工業社会において重宝されてきた歴史があります。すなわち、手作業で道具を作っていた時代から、工業化(デザインして、同じものを大量生産して、売る)する時代になったことで、デザインの重要性が増したのです。
工業化というのは資本主義の台頭と相まって、より人々が買うものをつくりだそうとする流れに乗りますから、より使いやすく、シンプルなものを思考していくのです。
もしiPhoneが複雑な機能やインターフェースを持つのであれば、ここまで世界中に広がることはなかったでしょう。つまり、iPhoneなどのApple製品は、工業社会におけるデザインの頂点のような存在なのです。
デザインとは何を指すのか
デザインについてもう少し突っ込んで考えてみようと思います。果たして、デザインとは何を指しているのでしょうか。言葉が持つ意味というのは時代によって変化するので、実は明確な定義というものは存在しません。
ただ、デザインという言葉の意味が、明らかに広くなってきているように思います。
というのも、20世紀的な工業生産の時代においては、顕在化していた課題が存在しており、それを解決するための”モノ”のデザインという側面が多くありました。
例えば、洗濯機をどのような形にしてどのような機能をつけるか、といったモノ志向のデザインがメインでした。それに、絵を書いたり、服をつくったりという行為も、デザインとして受け入れられるでしょう。
しかし、モノが溢れ、顕在化した課題が見つけにくくなったことで、デザイナーは課題を発見するということも求められるようになりました。課題を発見して、それを解くための最善な方法を考え、実際に手を動かして実装する。それがデザインの役割になりました。UI/UXデザインなどはまさにそれを指しているのです。
課題やニーズの発見というものは難しく、そして重要です。まず、課題を見つけるためにはユーザをよく観察して、ユーザになりきらなければいけません。自分ではない他人の目で世界を見つめるというのは難易度が高いものです。
また、ニーズはユーザ自身でさえ分かっていないということがほとんどです。ガラケーの時代に、「こんな道具があったら良いな、というものはありますか?」と聞かれて、iPhoneのようなスマホを答える人はほとんどいなかったはずです。
そのため、デザイナーは人の動きや行動をしっかりと観察し、課題を設定し、どのようなニーズが存在するか想像しながら製品を実装していく必要があるのです。一昔前に流行った「デザイン思考」というものは、まさにデザイナーが持つ課題発見能力や、課題解決能力をより広く活用していこうという発想のものです。
一口に「デザイン」と言っても、その意味は日々変わり続けているのです。
まとめ
アートとデザインは、
- クライアントが自分か他人か
- 複雑志向かシンプル志向か
という点が異なると書いてきました。もしかしたら、良い分け方が他にもあるかもしれません。
日本では少子高齢化により、労働生産性をこれ以上に高める必要が出てきています。そこで重要になるのは、「価値」とはなにかを見極め、より付加価値が高いものを低コストでつくっていくことです。
アートとデザインの違いとはなにか、という問いは一見無駄なものに見えるかもしれません。しかし、「アートの価値とは」「デザインの価値とは」と複雑な世界を分解して考えることで、価値というものの本質に迫れるのでは無いかと思うのです。