【コラム】リベラルアーツはなぜ重要か?




僕の出身である東工大では、僕が大学3年生くらいのとき(2013年くらい?)から、リベラルアーツ(教養)の教育に力を入れ始めていました。

ただの学生であり、社会経験も無い僕にとってはリベラルアーツを学ぶ意味というものがよく分からなかったのですが、社会人になって3年目になったいま、ようやくその重要性が分かってきた気がします。そこでこの記事では、生きていく上で、なぜリベラルアーツが重要なのかについて書いていきたいと思います。

目次

リベラルアーツについて

リベラルアーツとは、「教養」と訳されることが多いですが、ようするに芸術・文化・歴史といった人間の精神や内面に関する学問です。

東工大は理工系の学生しかいませんから、文系寄りの学問に興味を持つキッカケが少なく、そういった背景からもリベラルアーツが求められていたのでしょう。

ちなみにメカニカルアーツという対の言葉がありまして、こちらは人間の外側にある自然に関する学問です。すなわち、物理や化学といった理工系の学問が相当します。

リベラルアーツが重要な理由

われわれが目指すべき未来を描いていくため

われわれは日々働き、誰かに貢献することで社会をより良い方向へ引っ張っていこうとしていますよね。では、「いい方向」とは何でしょうか?

「いい方向」という絶対的な答えはもちろんありません。これはひとりひとりが考え、思い描いていくべきものです。そのためにリベラルアーツというものが重要になっていきます。

いい方向を定義するためには、「われわれ人間にとってどのような状態が幸せなのか」ということを追求する必要があります。そのために芸術や哲学、倫理や文化といったものへの理解が重要になります。

芸術というのは、元々人々が感じていたことや表現したいものを外界に射影したものです。すなわち、人類のいとなみの結晶のようなものであり、これまでどのように文化や思想が発展してきたのかを知るために重要です。

また、歴史から学ぶことも多いです。ビスマルクは「賢者は歴史に学び、愚者は経験から学ぶ」と言いました。これは、賢い人というのは他の人の失敗を見て学ぶ一方、愚者は自分で失敗しないと学べないという意味です。

歴史というのは過去の人類の記録であり、どのようなことをしたら失敗したか・成功したかという大事な情報が詰まっています。何がキッカケで戦争が起きるのか、なぜ国同士で仲良く出来ないのか、といった現状理解のためのヒントもたくさん詰まっています。

また、文化理解というものは社会を良くしていく上でとても重要です。文化とは人々がその土地で長い年月をかけて培ってきた価値観です。つまり、文化を理解し、そこに住む人々が何を大切にして生きているのかを理解しなければ、そこに住む人々の幸福を定義することは出来ないでしょう。

その点でいうと、日本においては文化的にマッチしないワークライフバランスや男女平等といった考えが輸入されていることで、なにかチグハグになっている気がします。

日本はもともと仕事と生活が強く結びついた国です。田んぼを耕しながら、夜は木工細工などをつくるというように、仕事と生活が溶け込んでいたのです。

しかし、近代化によってライフとワークという二分法によって分割され、「ライフ=自分のための時間、ワーク=生きるためにガマンして行う辛いもの」という考え方になってしまいました。

また、男女平等という考え方はヨーロッパから輸入された考え方です。元々日本では女性が男性に尽くすという文化でした。これの良し悪しは一概に言えませんが、女性は男性に尽くすことによって食料などの財を与えられ、悪い人から守ってもらうというメリットも享受していました。

このように、これからわれわれがどのような社会を目指すべきかを考える際には、その文化特有の考え方やそこに至った文脈・歴史を理解し、それを哲学や倫理と交えながらブラッシュアップしていかなければいけないのです。

ものごとの「意味」や「価値」を理解できる

「自分が働いて何になるんだろう」

「なんで落書きのようなアート作品が数億円もするんだろう」

と思ったことはありませんか?これらの、意味や価値に対する疑問への答えを考える上でリベラルアーツが重要になります。目の前の出来事を、歴史や文化の文脈で考えられるようになるのです。

例えば、自動車の開発をしている人であれば、産業革命以降に馬車から自動車に移り変わっていったことでどれだけ社会が大きく変わっていったかを知ることは有用でしょう。

そして、これから自動運転が実現されるようになれば、人は移動時間中に仕事をしたり本を読んだり出来るようになり、可処分時間が増加します。当然クオリティー・オブ・ライフも上がりますし、移動のストレスも満員電車に比べて減るでしょう。

自分が行っていることを社会や歴史的文脈と接合することによって、「意味」というものが生まれてきます。

また、アートについても同じです。ピカソなど一部のアート作品に高い値段がつくのは、その作品がアートや社会のパラダイムを変容させたり、これまでにない表現を行ったからです(もちろん純粋に美しいからという作品もありますが)。

ピカソはいびつな絵を書く作家というイメージがあるかもしれませんが、11歳の段階で相当な画力を持っていました。「ピカソ デッサン」でぐぐってみてください。あまりの旨さに驚くことでしょう。

ピカソは従来の絵をうまく描けるけれども、あえて3次元の動きを2次元で表現するという手法にこだわり、「キュビズム」というアート界のあらたな流れを生み出しました。だからピカソの絵は価値があるのです。

このように、文化や歴史や芸術について理解していると、「これにはどのような意味があるのか」「どのような価値があるのか」と言ったことが理解しやすくなります(僕もまだまだ勉強足りませんが)。

まとめ

世の中では経済が不安定になり、「食いっぱぐれない」専門職を志向する流れが強まっています。

しかし、本当に世の中に価値を作り出せるのは、文化や歴史の文脈を理解して、次の社会のビジョンを描き出せる人ではないでしょうか。そのような人のほうが、より価値が高まるはずです。

人間の時間は平等で有限ですから、どこまで広さと深さをバランス取るかということが重要になります。こればかりは手探りでやっていくしかありませんが、少なくともリベラルアーツは不安定な世界だからこそ、未来を描くための重要なツールになっていると思います。