【コラム】新型コロナの影響で院試の研究計画書が書きにくくなった話




今年2020年は、社会人ながら夏に大学院入試を受けようと考えていました。僕は学部卒なので、まずは博士前期課程に入りたいと考えています。研究したい分野は計算機科学、主にヒューマンインターフェースです。

まだ受ける気満々ではあるのですが、願書提出時に必要な「研究計画書」なるものが書きにくくなったなあという話です。この記事はかなり個人的なものになります。

そもそも僕が何故ヒューマンインターフェースの研究に興味があるかと言うと、コンピューターを主としたテクノロジーの開発によって、都市に存在する満員電車・過密化を解消したいと考えているからです。

日本は特に、仕事に意欲的に取り組んでいる人が絶望的に少ない国ですが、その大きな原因として都市の過密化が挙げられるのではないかと考えています。要するに、通勤が非常にストレスフルであり人の幸福度を下げているというよく言われるアレです。

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小売の店員さんや工事作業員などの現場に行く必要がある仕事ならまだしも、ホワイトカラーが何故オフィスにわざわざ集まらなければいけないのかと思っていました。その原因は色々と存在すると思いますが、一つにはコミュニケーションの問題があると思います。

つまり、現在の通信速度やディスプレイの解像度だと、対面で得られるときよりも相手からの情報量が少なくなってしまうし、用事があるときだけ相手とつながるようになるので、いわゆる「雑談」が生まれにくくラポールを築きにくいという点があります。

また、自分自身リモートワークをしていて気がついたことですが、ちょっとした画面共有でも割と手こずったりするし、アイディアを共有するために使うホワイトボードほど手軽な操作もまだできません。通信速度によってラグが発生したり、そもそも手書きをするにはiPadなどのタブレットが必要になると言った障壁もあるからです。

そこで、例えばハードウェアによる差異をソフトウェア側で吸収できるシステムの開発であったり、VRや3Dディスプレイを用いた新しいコミュニケーション手段の研究によって、フィジカルな会議とバーチャル空間での会議をより近づけることで、通勤者数の減少や、通勤が無ければ働きたいと主ふなどの仕事参加につなげられないかと考えていました。(日本は人口減少社会です)

新型コロナウイルスによって状況が変わった

新型コロナウイルスによって状況が大きく変わりました。端的に言えば、通信インフラやVRなどのテクノロジーが進化する前に、リモートワークが急速に普及してしまったのです。

これによって満員電車は軽減し、仕事の成果物はより可視化されて評価が公平になり、無駄な通勤時間を別なことに充てることが出来る世界に近づきつつあります。

これまで在宅勤務を阻んでいたハンコという文化にも、経済界からようやく疑問が投げかけられ始めており、世の中が大きく変わっていっています。

もちろん、テクノロジーは新型コロナによるパンデミック以前と大きく変わっていないので、以前として通信速度や解像度、あるいはインターフェースの問題は存在します。一方で、通信速度や解像度がイマイチであっても仕事が回せることに気がついてしまったとも言うことができます。

これは割と自分にとっては大きな問題でして、研究のモチベーションが「デジタルによる遠隔協働社会の実現」であったのですが、今回のパンデミックで急激に解決されつつあるのです。

研究は「なぜそれを研究するのか」という背景の部分が重要であり、その背景というものは社会の情勢によって変化します。つまり、社会の変化によって研究背景が書きにくくなったのです。

今の流れから言うと、VRを活用したテレビ会議などの方向というよりは、しばらくは2次元のまま、いかに通信速度と解像度を上げて、画面共有やアイディア共有をスムーズに出来るようにしていくかという点が重視されていくのではと考えています。

また、世界的なパンデミックでハードウェアの生産も限られてくるでしょうから、個々のバラバラなハードウェアに対して、統一な体験をもたらすことができるソフトウェアの開発も重要になってくるのかもしれません。

ただし、これから人がどう動いていくのかは全くの未知であり、大きな過渡期という状況で研究計画を書くのはなかなか大変であるということを感じています。

二次元ディスプレイの、それも通常の家庭にあるような低解像度のもので、どうすれば快適な仕事環境を作ることができるのかが重要になるでしょう。ただそれを考えるには、これまでのアナログ×デジタルの考え方ではダメで、デジタル空間内で完結して出来ることを探していかなければいけない難しさというものを感じます。

つまり、会場に人を集めて3D化した初音ミクのライブを楽しむというアナログ×デジタルの世界から、完全にデジタル空間で完結するテレビ会議の設計に重みをシフトしていかなければいけないということです。

社会の動向も踏まえて、また院試がどのようになるかも分からない中で研究計画書の作成や院試勉強をするというのは、なかなかつらいなと思うこの頃です。